机に突っ伏して泣いている時 慰めてくれるのは父親だけだった
母親も励ましてくれたが 健常者の母がかけてくれる慰めの言葉は
受け入れられない事が多かった
「お父さん 私は皆に気の毒そうな目で見られるのが とっても嫌」
「お父さんの話をよく聞くんだよ もしかしたらお父さん達は他の人達より
不幸かもしれない でも私達のこんな姿を見て他の人が勇気付けられるかも
しれないじゃないか だとしたら私達こそ他の人を慰めていることになるんだ
もう少しの辛抱だ お父さんが傍にいるよ」
その後も 父の存在は子供の心の奥のほうで守ってくれた
そうして 子供は思春期を乗り越え 大学に入学する事になった
入学式を終え会場を出てきた時 目の前で大変な事が起った
車が通っている道路に 小さな子供が駆け込んできたのである
前を歩いていた父が その子に向かって全速力で駆け寄った
その光景は 信じられないものだった
父は歩行補助器もなく 子供に向かって走っていたのだ
私は自分の目を疑い 父が子供を抱いて歩道に上がる姿を見守った
「お母さん お母さんも見たでしょ? お父さんが歩くのを・・・」
「驚かないでお母さんの話をよく聞いてね お父さんは本当は補助器がいらない
健常者なの 事故に遭った時お父さんが怪我をしたのは腕だけだった
でも4年間 補助器を付けて歩いたのよ あなたひとりを苦しませては
いけないって ・・・ 元気な体では苦しんでいる あなたを慰められないって
泣かないで そうでもしなければ お父さんは耐えられなかったはずよ
あえて不自由な体で生活してきたけど あなたを慰められる自分の姿を
どれほど誇りに思っていたことか ・・・ でも 今日は あの小さな子が
交通事故で あなたのようになるかと思ってつい ・・・ 」
遠くに見える父は いつものように補助器に頼りながら 足早で歩いていた
父を見つめる子供のパーカーの上に 涙がぽたぽたとこぼれ落ちた